令和に新人研修は必要?
2021年1月29日
新入社員にビジネスマナーを教える季節が近づいてきました。
しかし、この習慣、日本独特です。他のどこの国でもビジネスマナーを社会人に教えません。何故なのでしょう。
西欧のような個人が確立している国は、何を行うにもまず個人が契約をします。だから仕事も契約に基づいて行います。「成果で出す」ことが大切なので、そこに「マナー」は入り込みません。
日本はというと、企業で働くということは、会社への参加です。だから、入社であり、新入社員と呼ばれます。そして、日本は個人で働くことよりも、チームとして一体感を持って仕事をすることが重視されます。
そこで組織のルールや仕事上でかかわる人への接し方や言葉遣い振る舞い方が大切になってくるのです。
会社に入るとほとんどの人は、自分が一番下の位置に着きます。そして先輩社員たちに指導してもらうことになります。
この「先輩」「後輩」という言葉も日本特有の表現です。
社会人類学の権威、中根千枝氏によると日本はとても小さな単位の「場」の連続で成り立っている国だそうです。
「場」では常に最初に参加した人が一番尊重されます。
後輩がたまに先輩を追い抜いてしまうことがあっても、いつまでもこの序列は尊重されます。
同時に日々顔を合わせ互いに溶け込むうちに、時に後輩が先輩に失礼をする「無礼講」などというものも生まれます。仕事仲間同士でも羽目を外しガス抜きをします。時にとんでもない失礼な行為があっても許させる、親しい人なら許される、日本人に見られる「甘え」です。西欧人にはありえない光景です。
最近、某国会議員の不祥事に対して、ある議員が「僕は彼の先輩ですから、僕がしっかり指導します」と言っているのを聴いてびっくりしました。国会議員になっても先輩に怒られないと分からないのかと(笑)そして次々と派閥の長や党首が謝罪していました。
誰かが問題を起こすと本人だけではなく、全体の責任になるのです。だから問題を起こした本人はまっさきに所属する組織の長に謝り判断を仰ぎます。本当に謝るべきは他にいるのに上司や先輩が優先されるのです。そして良し悪しの判断は自分自身で決められない。
こうした文化は続くのでしょうか。私は、このコロナ禍でリモートワークが進み、また顔を合わせての会議やミーティングが難しい時代、変化するチャンスではないかと思っています。
令和時代のビジネスマナーは、一人一人の多様な個人を認め尊重できる人材、視座を変えて相手に対峙できることがマナーではないかと思います。
一人のビジネスパーソンとしての矜持を持った人材を育成することであると考えています。
今年も3月4月は新入社員研修をたくさん行います。
それが常識だから、ルールだから、ではなく、一人の人間としてどう振舞うか自分で考え行動できる新社会人を送りだしたいと思います。
(YK)
参考図書:「タテ社会の力学」 中根千枝著 講談社学術文庫