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Columnコラム

クレーム未満~謝るより感謝したい~

2023年8月25日

2023花火 ある小売企業の研修で、顧客心理を理解した応対を指導しています。

しかし、これが中々、受講生にはハードルが高いようです。

 

接客の場面に限らず、私たちはあらゆる場面で対人に関して「期待」を抱いています。
上司にも部下にも家族にも、ああして欲しい、こうして欲しいという期待は必ずあります。
特に客の立場に自分が立つとサービスをしてくれるスタッフに対しては、遠慮なくそれが顕著に表れます。
オモテナシズムでは大きく5つの心理に分類しています。

 

❶独占の心理 「サービスや人、物を独占したい」
❷自己中心(自分本位)の心理 「(私は客だから)私の都合に合わせてやって欲しい」
❸不安な心理 「私の要望がちゃんと充たされるだろうか。理解されているだろうか」
➍優先されたい心理「(いつも来ているのだから)自分を優先して欲しい」
➎歓迎の心理  「喜んで迎えて欲しい。歓迎されたい」

 

私たちは、お金を出す側の立場に立つと、自分は客だと当然思います。
100円のコーヒーを買ったときですら、客としてきちんと扱われることを期待します。
つまり、客なのだから自分の気持ちに添った接客をされて当然と思います。だから、少しでも自分の気持ちが充たされないとがっかりしたり不満に感じたりします。
そして、黙って次回は利用しないと決める人もいれば、不満を口に出す人もいます。
さらに、ここが人間の怖いところで、自分が客(つまり上の立場)だと思うと態度も大きくなり権利を主張します。

 

例えばこんな不満です。
「なぜいつもの私の席、他の人に予約させるの」(独占)
「予約していないのだけど時間がないので、すぐにやって欲しい」(自己中心)
「いつまで待てばいいのだろう。忘れられていないかな」(不安)
「いつも来ているのだから先にやってよ」(優先されたい)
「挨拶もないし案内もしてくれないとはどういうこと」(歓迎)

 

今回の企業研修では、こうしたお客様の期待を受け止める接客をロールプレイングで練習するのですが、気が付くといつの間にかクレーム対応研修になってしまいます。
何故なら、誰もがすぐに「申し訳ございません」と神妙な顔で謝る言葉から始めるからです。
いらいらした世の中で、クレーマーは増える一方だと良く聞きます。だからこそ、誰もが問題を大きくしないようにと即座に謝る癖がついています。

 

しかし、こうしたお客様の期待や小さな不満はクレームなのでしょうか。
最近、よく漢方薬酒のCMで未病という言葉を聞きます。
未病とは、「発病には至らないものの健康な状態から離れつつある状態」だそうです。
私はこうしたお客様の不満は「未病」ならぬ「未クレーム」の段階だと思っています。
こうして欲しい、ああしてくれないの、と口に出される不満はまだクレームではなく、ラブコールの段階だと考えています。
まだクレームではない、けれど放置しておくとクレームに発展する段階です。

 

ラブコールの段階だと考えれば、まずその気持ちに応える反応を示すことが大切です。
一方的にお詫びの言葉だけを繰り返してしまうと、対等な関係性がますます崩れてしまいます。
まず、相手の話を聴きましょう。
小さな不平に頭を下げられて神妙な顔で大げさにお詫びの言葉を言われて、なんだか体裁が悪くなった経験は、どなたでもあるでしょう。
「怒っているわけではなくて、気持ちをわかってもらいたいだけなのに」と残念な気持ちになります。

 

相手の気持ちに寄り添わずお詫びを繰り返していると、本当にクレームになってしまいます。
何故なら、謝られると「ほらやっぱり非があるのでしょう」と引っ込みがつかなくなるからです。
接客だけではなく、家族や大切な人との会話でもそんなことは起こります。
謝って欲しいのではなく、気持ちをわかって欲しい!寄り添って欲しい!
相手は本当に腹が立ってきます。

 

例えば「挨拶がない」と怒るのは、「私を大切に扱って欲しい」という気持ちの裏返しです。
「〇〇様、ご挨拶遅くなり失礼しました。今日もお会い出来て嬉しいです」とニッコリ笑顔で言われたら、それ以上、怒る気持ちはなくなります。
プライベートでも「なぜ連絡もなく遅く帰るのよ」と怒るパートナーは「心配しているのに」という愛情表現であることは、察しがつきますよね。
上司の不満も、成長して欲しいというメッセージだとしたら謝っても喜んではもらえません。

 

最近は争うことを恐れ、事なかれで済ませようとする人が多い気がします。
そしてちょっとした不満の言葉を「怒っている」と決めつけて、謝ります。
「謝っておけばいい」と考えてはいませんか。
謝罪の言葉をもらっても、真意を理解してもらえないままではストレスは解決しません。
コミュニケーションに手抜きは禁物です。
何度聞いても心地良いのは「ありがとう」と「自分の名前」だそうです。
「申し訳ございません」をいう代りに「〇〇さん、ありがとうございます」を繰り返したほうが相手の気持ちは上がります。
謝って解決することは、この世には少ないのではないでしょうか。

 

いらいらすることの多い世の中だからこそ、謝罪の言葉より、もっと相手を気持ちよくするボキャブラリーを増やしたいものです。
そして、言葉に添えるのは神妙な表情より、相手を受け止める笑顔にしたい。
ご機嫌の悪い相手に難しいけれど、思い切って試してみましょう。きっと関係が変わるはずです。
(YK)