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Columnコラム

女性は透明人間

2022年7月18日

富士山上空この数年、航空会社のお客様への呼びかけのアナウンスが「Ladies &Gentlemen」が廃止され、各社ジェンダーを区別しない言い回しに代わりました。日本語は元々、「ご搭乗の皆様」または「お客様」で呼びかけていますから、ジェンダーは特に表現に関係ありません。

とはいえ、実は日本語ほど役割で人を呼ぶ国はないのでしょうか。こと家庭内においては顕著であり、ジェンダーと呼び名が結びついています。

 

高齢者に「俺だよ」と言えば息子だと思われるだろう、と言う想定はなんてステレオタイプだと思うのですが、「俺」と名乗る娘はいませんし、それで通じるのが日本語です。

 

例えば、自宅に日中いればかかってくる電話はたいてい勧誘の電話なのですが「奥さんですか」で始まります。そう言われるとあまのじゃくな私は「違います」とだけ答えます。本当に私は「奥さん」ではないし「奥さん」もいないからです。

すると相手は戸惑い「・・・」と短い沈黙があり言葉を探しています。奥さんではない、では誰なのだろう、何と呼びかけたらいいのだろうと思うのでしょう。

たまに「ご主人いらっしゃいますか」ということもあります。女性には用がないのかしらと思いながら「いませんが何か?」と尋ねてみます。すると、これも相手は戸惑います。ある時「では●●について決定権のある方は」と尋ねられたことがありました。

女性は決定権者ではないと思われているのでしょうか。

詐欺だけではなく、セールス電話のマニュアルには、いまだに一般の家庭は昼間家にいるのは奥さんで、決定権を持つのはご主人と言う設定になっているようです。私としては「マニュアル改訂お手伝いしましょうか」と逆営業したくなります(笑)

まあ、いまどき固定電話に出るのは年配者だからなのかも知れません。

 

冗談はさておき、私のようなダイバーシティを扱う仕事をしていると、いちいち気に障ってしまい、とことん言い返したくなるから困ったものです。

 

では企業ではというと、先日、ある取引先企業からプロフィール写真の提出を求められました。私だけではなく他の方にも要請しているのですが「スーツ、ネクタイ着用」と注釈がありました。

女性について記載はありません。担当者に「女性はインナーは何を着れば良いのですか」と思わず問い合わせをしてしまいました。すると、担当者は「確認しますのでお待ちください」と即答がない。

うっかりであって悪気はないのは分かっているけれど、対象となる相手は3割ほどは女性であるだろうに、依頼をする文面に違和感を覚えていないのだろうなあと思いました。

信頼している企業の姿勢が、真のダイバーシティ実現の姿勢はないのだと感じてしまいました。

 

何かの本で「女性は社会において透明人間のように扱われてきた」と書かれていましたが、何気なく悪びれずに存在を無視されると残念です。

 

こうした積み重ねに、女性はもう慣れてしまって特に声をあげるほどのことではないとスルーしている女性は多いでしょうし、気にもしていないことは事実です。

 

私が憤慨していると「そんなこといちいち気にもしていません」と言う女性も多い。女性にも笑われて、私自身、なんだかフェミニストだと思われるのは嫌だなあと、肩身を狭くして口をつぐむこともしばしばあります。

それでも誰かのアイデンティティが無視されている状態では、決して、皆が自信を持って活躍できる場所にはならないはず。

 

相手のアイデンティティを尊重する。少なくともダイバーシティを推進しようとする企業においては、言葉や文章の細部にも気を遣って欲しいものです。

男性女性に限らず相手の感情に配慮する、これからの企業に必要な姿勢ではないでしょうか。

参考図書:「存在しない女たち」 キャロライン・クリアド=ペレス著 河出書房新社

(YK)